沖幸子イメージ
善き人のためのソナタ
公開中のドイツ映画「善き人のためのソナタ」を観ました。

1989年のベルリンの壁崩壊五年前の1984年の東ドイツ。
ちょうどその頃、西ドイツに住んでいた私は、監視社会に暮らす東ドイツの人々の大変さを聞いたり読んだりしていたので、私の住んでいた時代に、すぐ隣の国で起こっていた出来事に関心があったのです。

徹底した思想教育を受けた東ドイツの秘密警察のエリート幹部が、西側の自由思想を持つ劇作家の行動を監視するうちに少しづつ自分の国家体制に疑問を持つようになり、いつのまにか自分の任務を超えて、偽りの報告をし、その劇作家を助ける行動に出るのです。
監視する側の幹部は、二十年以上の罰を受けて重労働を課せられることになるのですが、その四年後にベルリンの壁が崩壊。
助けられたことを劇作家が知るのは、ベルリンの壁が崩壊して数年後なのですが。
やがて、劇作家は、ベストセラー作品「善き人のためのソナタ」を書くことで面識のない自分を助けてくれたその秘密警察の幹部への感謝を表します。
東西ドイツ統一後、自由の身になった元秘密警察の幹部は、大きな本屋の店頭で山積みされた劇作家のその本を目にし、自分のために一冊買い求めるのです。
その最初のページには、劇作家の自分への感謝の文字が。感動的なラストシーン。
全て映画の中の出来事ですが、現実でも起こってほしいかすかな願い。
心の底から涙がジワッツと出てきました。人間の魂のすばらしさを知る深い映画です。
詳しいあらすじは避けますが、国境や思想を越えた人間の心を揺さぶる交流は、“芸術”なのかもしれないことを改めて想像させる、とてもお勧めの映画です。

この映画はまた、今の常識は永遠でないことも教えてくれます。
当時、私が在籍していた大学で、「東西ドイツの統一は可能かどうか」をテーマに熱心に議論を重ねたことがありますが、結論は、私も含め全員がそれぞれの理由で当然のことのように「不可能」。
でも、その数年後、ベルリンの壁はあっけなく崩れてしまったのです。そのとき、私の持っていた歴史や世界観がいかに狭くて固定された範囲のものか、人間の常識を超える出来事がいつどこでも起こるのだ、と思い知らされました。
私の中で何かが音を立てて崩れ、もっと広い心で生きていこうと決心したのもこの頃でした。
ベルリンの壁を崩したのは、「目にみえない人間の内なる魂の叫び」ではないかとふと思いました。
魂の自由を求める人間の心の流れは、どんな権力を駆使しても止めることは出来ないのです。
そして人間の揺さぶられた魂の変化は、ある日突然、人間の行動になって現れてくるのです。


OKI SACHIKO リビングインターナショナル 
〒151-0053 東京都渋谷区代々木       TEL 03-6715-7454  FAX 03-6715-7452